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「さあね、そいつは今のところ何とも判らんでせうな。何しろこの前に手をつけたのは十年前だつたでせうかね、その時の礦石のかけらも残つちやいませんよ」
「それは、まあ、都会風でいけばそれでいゝわけだが」
と、今泉は一寸声をひそめた。
「死んだんですか?」
と、盛子は大げさに滑稽な顔をしてみせた。
徳次は房一がそれなり立去つて行つたものとばかり思ひこんだ。だからおれは知らん振りをしたかつたんだ、こつちでやきもきしても先方では毛ほども思つてやしないんだ。ちよつと頭を下げる、今日は、はい左様なら、だ。畜生め。――と、徳次は相手がちよつと自転車から降りただけでもうすつかり忘れてしまふところだつたこれまでの心外さをもう一度よび戻さうとつとめながら、口惜しさうに、半ばは呆然として房一の行つた方を眺めていた。
半シャツの男は房一の前に来て、はじめてお辞儀らしい格好をした。
「すまんでしたな、長話をして」
「さうですか、さうですか。それは、いや、ごていねいなことで」
「うん、行くよ。――だが、夕方でいゝだらう」
「うん」
「あゝ、さうか。ふうん」
「こゝの消防演習をやつたのだ。そんなに騒ぐことはない」