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「ハッパもいゝが、近頃は土方がいたづらをするとか云うて、女の子が下の方を恐はがつて通らんていふぢやないかね」
「おーい、火事はどこい行つたあ」こんな風に、口々に喚いていた。
男は、びつくりしたやうに房一を見た。
「なんだ、さつぱり判らんぞう」
「眼が潰つぶれちまふ――ねえ、先生」
練吉は房一の腕にさはつて、囁くやうに云つた。近眼鏡の下から切れの長い練吉の眼が一種こつそりした親密な表情をのぞかせていた。突嗟とつさに房一はその囁くやうな調子や眼つきから、練吉が何のことを云つているのかを了解した。
「玄関の手入れをどうしようかと云ふのですよ」
「何をするかつ」
房一はふと自分に返つて訊いた。
川では鮎漁がはじまつていた。
房一は鬼倉に向つて叮重ていちように云つた。
「はい、若先生に代りに行つてもらへとおつしやいました」
一人だと何んて少ししか喰べないもんだらう、まるで小鳥の餌ほどだつたわ、と可笑をかしがりながら。――それに、後片づけだつてざぶざぶつと一二回やれば済んでしまふわ、と横目で膳の上を眺めながら。