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今頃になつて、男はさう訊き、盛子がそれに答へる前に、ひとりでうなづいていた。
突然はじまつたこの二人の親密な往来を、小谷は苦笑しながら、半ば無関心で眺めた。女といふものは妙なことから仲よくなるものだ、と思つた。が、由子の口から盛子のことを聞くにしたがつて、彼は高間医院について満ざら他人でもないやうな気に自然となつた。
「さあ、知らん」
房一は立ち上つた。すると、着古しのワイシャツから下はズボンなしの毛むじやらな肥つた円つこい肉のついた脚がによつきりと出た。さつき河の中に入つたときに、ズボン下を脱いでしまつたのだ。
それからしばらくの間、房一は来る人ごとに、会ふ人ごとに、見舞の言葉を云はれた。彼等は房一の紅黒い顔をまじまじと眺め、そこにその晩の出来事のかけらでも見つけられでもするかのやうに、又何かしら話をひき出さうとし、同情し、感嘆した。そして、きまつたやうにつけ加へた。
「や、失礼、おさきに」
だが、このはてしのない遠慮深さは気持の悪いものではなかつた。
房一はあの騒ぎの晩、土手に駆け上つた瞬間高張提灯の明りで見合つた喜作の、禅坊主めいた精悍な顔が、その後度々会つたにもかゝはらず、妙にその時の顔だけがいつまでも印象に残つていた。
「はゝ、知つているな。よし、よし何もいやしない」
「ふうん、それもよからう」
房一がそこへ出るのと、さつきの二人が表から入つて来るのと同時だつた。
と生返事をしながら、大工の口にした高間医院といふ名前が耳新しく響いたので、房一は思はず微笑した。